うちですっかり定番メニューになってしまったオーバーホール。今回は電動アシストです。

着手前。ブリヂストン ボーテアシスタ 2010年モデル。12年間日常の移動にほぼ毎日使われていたわりにはきれいな状態です。保管環境が良いのでしょう。
まずはばらしてフレームを磨きます。はずしたパーツはなくならないようにまとめて箱の中へ。

まずはアナログの部分をやります。ばらして、磨いて、組み立てる。ひたすらこの一連の作業の繰り返し。

主な回転部分は、ヘッド、前後ハブの3ヵ所。クランク回転部分のBBはモーターについているので、ばらせません。
後ろの内装3段ハブは、ユニットを取り出し、洗浄オイルにつけておきます。メーカーのシマノによると、5000kmに一回、つまりタイヤ交換時あたりにやったほうがいいということになっていますが、やっている自転車屋を見たことがありません。まあ私もその中の一人ですが・・・。
たぶん一般車はトラブルが起きたら直すという習慣なのでしょう。そもそもメンテナンスという概念は箕臼です。そもそもスポーツバイクみたいに簡単に車輪が外せたり、外からメカが見えるようになっていないので、メンテナンスしやすいように設計されていません。

車輪は振れやスポークテンションの調整。10年以上乗っててスポークがまだ一回も折れてないというのは驚き。そろそろ折れると思うので、後輪はスポーク全て交換。前輪はそうそう折れないから大丈夫。ローラーブレーキにグリスを入れときます。これはシマノのローラーブレーキ専用グリスで、一般的なグリスと違い、摩擦材が入っており、潤滑が目的ではありません。使っているとなくなってくるので、たまに入れてやる必要があります。

フロントのダブルピボットブレーキはばらして、オーバーホール。ここは新品が2~3000円くらいでなので、交換してもよかったのですが、なぜか取引先のラインナップから消えていたので、ばらしてオーバーホール。
ピボットのネジはガン締めしたらブレーキが動かなくなります。スムーズに動いて、かつガタがでない程度が適正です。しかしネジはしっかりしめないと緩みます。一か所は下からイモネジでしめて固定。もう一か所はゆるみ止めをぬって固定。ちょっとつけすぎたか・・・。
さて、ついつい後回しにしていましたが、そろそろ禁断のモーター関連に。

実はモーターはブラックボックスなのでばらせないのでこのままです。
・・・と言ってしまったらつまらないので、試しにばらしてみました。

お客さんのではなく、店のデッドストック品です。なぜかうちの倉庫にはモーターがゴロゴロしています。市販されていないのになぜでしょう。ばらしてみて、ようやく仕組みがわかりました、これはこれで良い経験だったので、後日動画にしようと思います。今回のオーバーホールのものと同系のモーターもありました。型番は違うのですが、互換はありそうです。とっておきます。
プーリー、スプロケット、チェーンは新品に交換。実はこのあたり削れて歯が減るので、わりと交換するところ。ペダルをこいでて、このあたりから異音がしてきたら、交換の時期です。

ペダルはMKS Panamaxにしました。メーカーの説明によると、パナマックス「パナマ運河を通過できる最大寸法の船」という意味。定価¥2,530(税込)と安価な上、回転もスムーズ、ぶつけるのでやっぱり樹脂が一番、何よりボディが広くて踏みやすい。一般車系のペダルはこれがベストだと思います。最近メーカー三ケ島が廉価版のペダルの在庫が軒並みなくなっているのですが、これは今後もあってほしい。

もともとついていた樹脂のチェーンケースは割れていたので、ちょうど別のお客さんが買い替えで廃車として置いていったアンジェリーノ ポッシュのものをつけました。ピッタリです。ロゴもイエローで車体と完全にマッチ。完璧! 実はここが今回の仕事で、クライマックスの瞬間です。
自転車屋でも、電動アシストは部分的な修理はあっても、オーバーホールとなるとなかなかやることのない作業。私も12年間この仕事をやっておりますが、初めてです。
私見ですが、自転車屋に持ち込んでもなかなかやってくれない理由は以下の2点になります。
モーターなど電気的な部分は手を出せない。
補修パーツがもう手に入らないかもしれない。
自転車屋はいわゆる自転車的なところは直せますが、例えばモーター内部や電気系統が壊れてしまったら、ほとんどの場合直せません。モーターだけはずして、メーカーに送って見てもらうことはありますが、だいたいの場合モーター交換(数万円はします)になります。それなら新しいのに買い替えようとなるので、めったにやりませんが・・・。
電気系統で唯一外に出ているところ、手元のスイッチとライトは壊れやすいので交換することは多々あります。ただしメーカーが互換のあるものをまだ生産していればの話ですが。
そういえば、スイッチは日々使うたびに押すので、表面が削れてきます。雨ざらしにしておくと浸水して壊れます。なのでスイッチ交換はよくある作業なのですが、1万円以上するわりと高額な修理。サイズの合うシリコンのカバーをつけておくのをお勧めします。これがついてて浸水したのを今まで見たことがありません。

昔からある規格が統一された自転車パーツと違い、スイッチなどの電気関連、スプロケットなどの補修部品は専用品で、メーカーから取り寄せになります。特に消耗品であるバッテリーは、基本的にメーカーは製造年から7年以上たったものは生産しないことになっています。バッテリー自体は容量以外ほとんど進化していないのですが、バッテリーと受けの部分の形状が年式ごとに変わり、互換はありません。実際は毎年変わるわけではなく、2~3年くらいで変わるので、10年くらい前のモデルでも互換のあるバッテリーがまだ生産されている場合があります。なので、電動アシストの寿命はまずはバッテリーが入手不可になった時なので、現実的に10年未満なのです。ちなみにこのモデルはバッテリーも補修パーツもまだ入手可能でした。
電動アシストのオーバーホールは新車一台買えてしまうような金額します。また、電動アシストはその走行性能をアシストによるところが大きく、モーター以外の部分をいくら良くしても、なかなか違いがわかりづらい。またモーターの寿命がいつくるか、極端な話、オーバーホールした直後に壊れてしまうかもしれません。可能性は低いですが、そういうリスクを考えると、あまりおすすめはできないのが現実。
ただ、どうしてもその自転車に乗りたい、この自転車じゃなきゃダメだ、というのなら話は別です。今回はそのパターンです。モノの価値は市場価値だけで決まるものではありません。感情的な面、オーナーと共に歩んできた歴史と愛着があるなら、コスパは関係ありません。そのモノを活かすのに最大限のことをするのもまた正解だと思います。

後日談ですが、実はこの自転車、お渡しした翌日返ってきてしまいました。オーナー曰く変な音がするとのこと。ペダルを回してみると、確かに周期的にカチン!と音がします。しかも結構大きい。チェーンケースを外すと、チェーンつなぎ目がプーリーを通るたびにケージに当たっています。以前のプーリーと比べると、もともとついていたのはちゃんとチェーンが通るところが広くなっている。新しいほうのプーリーをよく見ると内側にスペーサーが入っていたので、これを外側に入れ替えたらプーリーが内側に入り、チェーンつなぎ目の外側の出っ張りに当たらなくなりました。なぜメーカーはこんなマイナーチェンジをしたのでしょう。古いほうのプーリーはアーカイブとしてとっておきます。
これだからいろんなものが増えるのです。もう管理しきれない・・・。
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